2007年1月5日-また会う日まで


2007年1月5日。とうとう日本へ帰る日がきてしまいました。
12時前にホテルをチェックアウトして荷物を押しながら駅へ向かう。
スーツケースの車輪がひとつ壊れてしまい、まっすぐ動かないので力づくで動かすため、もう、ありえない重さ。
本当にホテルが駅の向かいで良かった。
マルメの中央駅は既に人がたくさんいて賑わっている。
中央駅のカウンターへ向かうと何人か順番待ちをしていたので、私も整理番号を取って順番待ち。
空港までの電車の切符を買う。片道93kr。約1760円。
いわゆる特急電車なんだけど、指定席でもないのに高い!
何も言わなければ自動的に一番早い発車の切符を出してくれるので、12:22の電車に乗ることに。
コペン空港までマルメ中央駅から20分くらいなので12:43着予定。
15時45分のコペンハーゲン空港発の飛行機に乗るのでかなり早く空港に着くのですが、荷物に手間がかかるので余裕を持って出発。
12:22発だとあと10分しかないか~ひと休みできないけど、そのぶん空港でのんびりしよう。
いつも帰国する日は帰りたくなくて、スウェーデンから離れたくなくて朝から落ち込むんだけど、今までと違って帰ったら辛い仕事が待っているわけでもないし、この時は長旅だったせいかあまり暗い気分ではなかった。
せっかくなので、今回は落ち込まずにスウェーデンを後にしたいなぁと思ってた。


マルメ中央駅は小さいながらも”中央”というだけあって広場には土産物屋やカフェ、レストラン、コンビニ、本屋などがあるのでちょっと楽しい。
電車ホームは切符売り場のカウンターを出た広場の向こうに直結してるので近いし段差がなく、楽ちん。うれしい~。
広場にはたくさんの電車を待つ人がカフェで休んだり売店で買い物をしている。
課外授業なのか遠足なのか、10~15人くらいの学生が先生らしき人とわいわい固まってくつろいでいた。
そっか、こっちは正月休みなんてないんだよなぁ、クリスマス休暇って何日までなんだろ?と何気なく思いながらスーツケースに集中しつつホームに向かう。
突然、「Hej.(スウェーデン語でHi)」と私の行く手を阻む人影が。
顔を上げるとGood Charlotteのファンみたいな、目の周りを真っ黒に縁取った黒髪と金髪のパンクス女子高生(たぶん)が二人いた。
女子高生と言ってもちびな私よりも背が高く、意味ありげに微笑んで私を見下ろす。
カツアゲか!?と一瞬たじろぎつつ、「Hej.」とにこやかに返してみる。
すると黒髪の子がスウェーデン語で話しだしたので「あーI'm sorry,I can't speak Swedish…」と言うと「Oh! I'm sorry. I'm Margarett.」と自己紹介をする。
スウェーデン人の名前は発音が難しいので違う名前だったけど、まぁマーガレットだかそんな感じの名前だった気がする。
カツアゲだったら、自己紹介しないよね…と戸惑いながらも「…I'm Tsukiko.」と私も答えてみた。
すると「Ah,ハグしましょう!」と言ってなぜか3人でむふ~とハグ。
握手じゃなくて?ハグ?なんで?君たち誰?
頭がこんがらがっていると、一人が「どこから来たんですか?」と聞くので「日本です」と答えた。
その瞬間、「キャーッ!!」二人の女子が金切り声を上げて「ジャパン!キャー!ジャパンだって!ウソマジどうしよう!キャーッキャーッ!!」とそんな感じで驚喜乱舞し始めた。
突然の反応にびっくりしたけど、おもしろかったので私も一緒に「キャーッキャーッ!」と騒いでみた。
あぁ、女の子ってどこの国でもかわいいなぁ。
ひとしきり3人で騒ぐと、途端に女子ふたりがひそひそと「なんだっけ、ほら、えーっと」というようなことを話しているかと思ったらぱっと私を見て「こんにちは!」と言った。
そのうれしそうなキラキラした笑顔がかわいくって、しかもその笑顔がまるごと日本に向けられているのだと思うと胸がきゅんとなった。
しかも、すごく流暢でなまりのないキレイな発音だったので、日本が好きなんだなとわかった。
「こんにちは!」と返すとまたきゃあきゃあじゃれる。
あんまりかわいいので「You're very かわいい!」と言うと、「Oh! KAWAII?」と言ってうふふふ、とはにかんだ。


で、この子たちは一体なにがしたくて私に声をかけたんだろう…とその後の反応を待っていると、同じ学生らしき男子がビデオカメラを回しながら「なになに?チャイニーズ?」と割り込んできた。
女子二人は「違うよ!ジャパニーズなんだって!」と私の代わりに勢いよく訂正してくれた。
ハッと我に返って時計を見ると12:15を過ぎていた。
電車の時間まであと5分しかない。
その後の展開がどうなるのか興味があったけど、私はまたホームに向かうことにした。
「うーん、Bye…Hej da!(ヘイド、スウェーデン語でさよなら)」と言って手を振りながら歩き出すと、後ろで「Hej da! あっ、…」と女子たちが何かを言い合う声がした。
何をひそひそ言ってるんだろう、と何気なく考えながらホームの入り口に着くと、大きな声で「またね!」と言う声がした。


えっ、と予想外の言葉に驚いて振り向くと、向こうで女の子二人が「またね!またね!」と手を思い切り振っていた。
たぶん”さよなら”の意味で言ってるんだろうなぁと微笑ましくて私も手を振りながら「またね!」と叫んだ。
その後も、電車に向かう私の後ろから「またね!またね!」と繰り返す声が聞こえて、なんだか胸がいっぱいになり、涙が出そうになった。
電車は既に満席で、残念ながら座れる席はなさそうだった。
荷物を引きずるのをあきらめ、とりあえず近くのドアから乗り込む。
あのスウェーデンの子達は、別れの言葉に”さようなら”ではなく”またね”と言うことを何から学んだのだろう。
それが先生にしろ、漫画にしろ、とても素敵なことだと思った。
3週間の旅行の最後の日に、大好きなマルメの街の駅で、とても大きなお土産をもらってしまった。
私はドアのそばの壁にもたれて泣きたいのを堪えていた。