Nytt Ar! 大晦日にて


今回のもうひとつの楽しみは大晦日を体験すること。
クリスマスコンサートの時にもらった冊子を見て、大晦日の16時から大聖堂でコンサートがあることを知った。
しかもベートーベンの第九!
「大晦日に第九を聞くのは日本くらいだ」と聞いたことがあったけど、なあんだ、ヨーロッパでも大晦日に第九を聞くんじゃん。と思った。
たまたま今年は第九だったのかもしれないけどね。
チケットを買いにガムラスタンの大聖堂前にある小さなお土産もの屋さんへ行く。

それにしても噂とおり、クリスマスを過ぎてもイルミネーションはそのままです。
そういえば”God Jul(メーリークリスマス)”の文字はなくなったかな。
よく見かけたのは白いチューリップ。市場の花売り場でもたくさん置かれてました。
こちらでは年末年始の花はチューリップ?春の花なのに?
でも新年を真っ白い花で迎えるのは清々しくていいかも。




12月31日、大晦日のコンサートはとりあえず一番安いチケット(105kr、約1800円)でいいかなとレジのおばさんに伝えると、既に完売。
まだ空いているのは2番目に高いチケット(280kr、約5000円)だった。
座席表で空いている席を見せてもらい、せっかく来たんだから!と購入。




大晦日の前日、12月30日には聖クララ教会で18時から無料コンサートがあったのでこちらにも行ってみました。
このコンサートは歌とオルガン、ピアノのみのシンプルなもの。
曲目にクリスマスソングもあって、やっぱり不思議な感じ。
開演になっても人がまばらで、クリスマスとは違いひっそりしていました。
でも、歌も曲もなんだか平坦でいまいち…退屈な感じ。
そのせいか私が風邪をひいていたせいか、恥ずかしくも途中でうとうと寝てしまった。
むう、大晦日のコンサートは寝ないようにしなければ。



大晦日当日、観光客で大混雑のガムラスタンをぷらぷら散歩した後、カフェでごはんを食べて15時半に大聖堂入る。
クリスマスのときよりもみんなおしゃれをして、会場内はとても華やいだ雰囲気。
トイレ行っとこう!と係のおばさまにトイレどこですか?と聞くと「あちらですよ」と指した先をみると、すでに長蛇の列だった。
おばさまも今それに気づいたらしく、「あらあら!」と驚いてなぜかふたりで爆笑。
なんかコントみたいで笑えた。
仕方ないなぁと席に着く。
私の席はDの123列。うーん、本当に壁沿いの席だ。ステージには結構近いけど、上にバルコニーがあるので音が悪そう。
まだ数人しか座っていなかったこの席列にも次第にお客さんが来る。
長ーい椅子の端に「100~140」と記されているだけ。
きっちり「ここが何番」と記載がないので、だいたいこんな感じ?というアバウトさでみんな座る。
後から来た人が自分の右なのか左なのかわからないので、おどおどしていると右からとても上品なおじさまがやってきて「あなたは何番?(端から123…と指で数えて途中で手を振りながら)うむ、まぁこのへんでしょうね」と真顔で言ってくれたので安心して座る。
時間ちょうどにコンサートが始まった。
一曲目はJohan Helmich Roman(ルーマン)の管弦楽曲。
始まった直後、全身に鳥肌がたった。
そして、次第に涙がこみあげてきた。
素晴らしい。素晴らしい。なんて音がきれいなんだろう!
あんなにきれいなバイオリンの音を生まれて初めて聴いた。
教会だからだろうか?ヨーロッパの乾燥した気候のせいだろうか?
とにかく弦楽器の音が透明で、天井に、人々の身体に、すうっと吸い込まれていくようだった。
ルーマンはスウェーデンの作曲家なので、スウェーデンで演奏することで良さが最大に出されるのかもしれない。
会場には家族で来ている人も多く、小さな子供もたくさんいる。
小さなころからあんな音を聴いていたら、そりゃ耳が肥えるよなぁと心底思った。
とても眠気なんて感じるどころじゃなかった。
そして途中で主催者?の女性の話があり(これがスウェーデン語のうえにすごく長くて飽きた…)、いよいよベートーベン。
第九ももちろん良かったけれど、残念ながら合唱が弱く、迫力がなくてあと一息!という感じだった。
曲が進むにつれ、「もうすぐ終わりでオーケストラの音が聞けなくなってしまう」と悲しくなってきた。
終わって拍手していると、隣のおじさまが「英語は話せますか?」と声をかけてきたので「少しだけ…」と答えると、真顔で「少しだけ。ふむ、Are you enjoyed?」と簡単な英語で…嬉しい(涙)
はい、楽しかったです!と答えると「それは良かった」と、満面の笑顔。
このとき初めて笑顔を見たのですが、やっぱりサンタさんのように(口ひげのせい?)ほわんとあったかい笑顔でした。

コンサートが終わりホテルへ戻るとやっぱり具合が悪い。
日本から持ってきた葛根湯を飲んでもあまり熱は下がらず、身体もだるい。
特技は風邪を一日で治すこと!と豪語している私なのに…おかしいなぁ。
本当はカウントダウンをスカンセン(野外博物館)でコンサートを聞いて迎えようと思ってたけど、明日の元旦はMalmoへの移動日で忙しいので行くのを止めた。
スウェーデンでのカウントダウンは諦めよう。

早々にベッドに入り眠っていると、外で”ドン、ドン”と音がしはじめた。
すこし目が覚めてしまい、近所でカウントダウンの花火でも上がってるのかなぁとぼんやり思う。
しばらくうとうとしていたけど、次第に”ドンドンドン”という音が激しくなり、なかなか眠れない。 なんなんだよ!とカーテンを開けてみると、小学校の向こうにちらっ、ちらっと打ち上げ花火が見える。
やっぱり花火かーと思い、せっかくだから写真を撮ろうとしたんだけどちらっちらっとしか見えない。
イライラしてきてすっかり目が覚めてしまった。
小学校の高台へ登ればきっともっと見えるな、と思い、「写真だけ撮って寝る!」と決めてダウンをはおり、ブーツを履いて外へ出た。
高台へ登ると、人が何人か騒いで花火を上げていた。
ここで上げてたんだ!?うるさいはずだよーとふと見ると、予想もしていなかった景色が広がっていた。


*ムービーを見るには、再生画面左下の小さな矢印→をクリックしてください。
(画素数を下げて撮影したので画像が荒くてちょっと見づらいかも)

高台から見える270度ぐるっと、そこらじゅうで花火があがっていたのだった。
しかも、あがっている数がはんぱじゃない。
花火の音も”ドン”なんてかわいいものじゃなく、”ババババババ”と絶え間なく爆音が鳴り響いている。すごい!
私は千葉の九十九里浜の近くで生まれ育ったため、花火大会で真上に打ち上げられた特大の花火を砂浜に寝そべって眺める(時々近くに花火の残骸が落ちるので結構デンジャラス)というゴージャスな体験はしていたけど、この眺めは生まれて初めてだった。
わあーわあーとデジカメで撮りまくっていたら、おばさんがワインを片手に「Happy New Year!」と微笑みかけてくれた。
感動と興奮でうまく言葉が出なかったけど、そのおばさんに「これは、毎年なんですか?」と聞いてみた。
「そう、毎年こうやってそこらじゅうで花火をあげるの!すごいでしょう!」
「本当にすごい!これは、えっと、ストックホルム市がやっているんですか?」と聞くと、「えー!違うわ!市はむこうの方であげている一部だけ。こっちのぜーんぶ(腕を広げて)は私たちみたいな家族が自分たちの庭やなにかであげてるのよ。」
私はさらに驚いてしまって、本当に言葉がでなかった。
”家族”が、”庭”で、”打ち上げ花火”をあげている!?
おばさんはこの家族のママさんで、あとパパさんと子供が3人、それとアゼルバイジャンから来ている男の子が一人の総勢6人で、この場所で花火をあげていた。
口をぱくぱくさせて驚いていると、「あなたはどこから来たの?日本!日本ではこうじゃないの?」と聞かれてしまった。
日本ではありえません!私ははじめてこんなにすごい花火を見ました。とたどたどしく答えた。
日本では、小さなエリアでたくさんの花火をあげます。小さいエリアで、うーん、何十とか100とかたくさん花火をあげます。こーんなに広い域で家族が花火をするなんて、もうもう、絶対ないんです!
カタコトの英語で説明すると、ママさんは真剣に聞いてくれて、「あらそうなの!じゃあこの光景を見られて良かったわねぇ!すごいでしょ?」と一緒に喜んでくれた。
ふたりで花火を眺めている間に、高校生くらいの息子さんや中学生くらいの娘さん、小学校低学年らしい娘さんが「ママ、次はロケット花火ね!見て見て!」などと大声で叫ぶ。
さらに近くでも別の家族があげている花火があがったりするとキャーキャー騒いでそりゃもうお祭り騒ぎ。
アジア人が加わったのでさらに子供達は興奮しているようだった。
スウェーデンの子たちはちょっとはずかしがりやなので、時々近くに来てはもじもじと微笑みかけてくれる。
あぁ、来て良かった…と感涙していると、ママさんが「ほら見て、月がとってもキレイ!スウェーデン人、アゼルバイジャン、そして日本人の私たちが年越しの花火をこうして一緒に見ているなんて(笑)素敵ねぇ。」と言った。
空を見上げると、花火の合間から満月が輝いていた。
ママさんが「そうだ!あなた、花火をあげてみなさいよ!ね?」と提案。
実は、私は火花の散るものが怖くて、マッチすらつけられないほどなのです。
怖いから無理~!と言うと、「大丈夫よ~!さ、こっちこっち。あなたの来年が幸せな年になるように、ね!」と言われ、これも何かの縁だ、よーし!と気合いが入った。
ママさんについて着火台(パパ作)に行くと、「あなたは初心者だからロケットにしましょ。」と言って着火用の花火に火をつけ、差し出された。
なあんだ、これ(着火用)なら火花も散らないし大丈夫だ~と安心して火をつける。
ママさんが「ほら、離れて離れて!」と言ってみんなでキャーキャー言いながら少し離れると、ひゅうっと音を立てて花火が飛んで空でちらちらと散った。
…悔いなし!!


その後も花火は止むこと無く続き、ママさんは流暢な英語で私のカタコトのおしゃべりにつきあってくれた。
「日本といえばキティ!」と言って、うれしそうに鍵につけていたキティを見せてくれた。
しかもそのキティは牛のがぶりものをしたちょっと大きめのもの。
ストックホルムで売ってるのかな?すごいな~。
しばらく花火を堪能して、「私は明日ストックホルムを離れる為に朝が早いので、そろそろ帰ります。みなさんのおかげですごく楽しかったです。ありがとう!」と言うと、「えぇっ、残念。それじゃ、Goodnight and Happy New Year!」と言ってハグしてくれた。
パパさんや子供達とも「バイバイ、バイバイ」と手を振ってお別れ。(みんなそれぞれの花火に夢中だったので)
すごく名残惜しくて、後ろ髪引かれながらホテルへ戻りました。


ホテルに戻ると、正面のドアが開かなかった。がーん…
部屋の鍵で開けるのかな?(裏口はそうなのです)と思い、鍵を入れても空かない。
ふと見ると、「入る人はドアベルを押してください」と書いてあった。
ドアベルを押すと、ガラス越しにカウンターの中から男性が表れ、「ちょっと待って、いま開ける~」とドアを開けてくれました。
どうやら、防犯のためか深夜はこういうシステムになっているようです。
部屋に戻って時計を見ると、既に2007年1月1日の0:30過ぎだった。
そして、いまだ止まない花火。うーん、すごい。
そしてダウンジャケットの中はパジャマだったことを思い出し、同時に風邪をひいていたことを思い出した。
風邪が悪化すること、確実。
でも、風邪が悪化しても、あの素晴らしい経験は後悔しないだろうなぁと思った。